ワルシャワ通信

冬が過ぎ春が来て夏になってしまった。枯れ木のようだった街路樹が、5月になったとたんにあっという間に芽吹き葉を広げ花を付け、季節のめまぐるしい変化に驚く毎日。午後2時には夕方だった冬がウソのように、夏は午後10時が日暮れです。経済もめまぐるしく変化しているポーランドでは、時流に乗れてちょっとリッチになった層らしき人々がバカンスに出かけてしまい、夏のワルシャワは閑散としています。


長期旅行者気分でワルシャワを見る私が、未だに『目点』なものごとをつれづれなるままに綴ってみました。


※旅行ミニコミサークル「クリエイティブ ライゼ」Vol.8(1996~1997)に掲載された旅行記を、若干リライトして転載しています。


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◆面白習慣あれこれ

ネームディ

ポーランド人は子供にキリスト教の聖人の名前を付ける(他のヨーロッパ諸国もそういう場合が多いが)。聖人の数なんか知れてるから、あっちでもこっちでも同じ名前がウジョウジョいる。また、日本で大安だの仏滅だのがあるように(ちと違うか)、ここでは暦にそれぞれ聖人の名が付いている。ポーランド人は自分の誕生日よりも、自分の名前と同じ聖人の日をお祝いするのである。誕生日は10月1日でも、名前がアレクサンドラだったらアレクサンドラの日(8月28日)の方を盛大にお祝いするわけ。ネームディのパーティを催し、それに招待された人はプレゼントを持って駆けつけるのが習慣。


お花

ポーランド人は花が好き。町中に花屋があり、年中きれいな花をたくさん売っている。ポーランドではプレゼントにはお花が一般的。豪華な花束からバラ1本まで、お花を持って親しい人の元へ急ぐポーランド人の姿はとても素敵。ズボンを半分ぶら下げた今どき少年(ここにもこの気持ち悪い流行が出現している)も、彼女へのプレゼントなのか小さな花束を持って歩いていることがある。こういう姿を見ると、このズボンもちょっとは許そうという気になろうというもんだ(かんけーないか)。どんな苦しい時代にもお花を贈る心を忘れなかったポーランド人は、本当に芯から優雅な人たちなのかも知れない。しかしマイナス20度近い大寒波が来たときにバラの花束を持ってトラムに乗って、招待してくれた人の家に行ったところ、着いたら花は完全パリパリに凍っていた。おそろしい…。


トイレ

トイレを探すときは要注意。男女のイラストではなく、大方の場合は「○△」と書いてあるのである。○が女、△が男だ。どういう理由なのか判らないので、どっちが女だったか忘れてしまい、悩むこともしばしば。しかも、である。明らかに○から男が出てくることがあるんである! あまりのことに、ある日本♀がポーランド♂に「ポーランドでは男が女便所を使うのが当たり前なのか!」と詰問したら、「△が一杯のときなど、○を使うことはないわけではないが、いいことではないし一般的ではない…」と消極的な返事。まあ、高速のパーキングエリアのWCで「男は個室を使わないんだからいいわよねぇ」と言い訳しながら堂々男側に突進していく日本のオババよりはいいか。でも便座上げてから使えよ、ポーランド♂!

※現在はあまり○△は見かけなくなり、ごく普通のユニバーサルなデザインが主流。


テレビ

ポーランドには多分「声優」という職業は存在しない。吹き替えという習慣がないらしい。外国映画を放送する場合、たった一人の弁士が登場人物全員のセリフをしゃべるのだ。元の音声を消してしまうと誰のセリフか判らなくなるため、本来のセリフも小さく入った上に弁士がひたすら語るから、もううるさいのなんの。ど~んなラブシーンでも「ジュディ、愛してるぜ」「私もよ、ジョン」とオジさん弁士が一人でとうとうと読み上げるので、超シラケ物である。こんなテレビを見ていて、ポーランド人は楽しいのか!?(TVでは字幕というものもあまり存在しないので、弁士が大活躍だ。花形弁士ってのがいるんだろうか)。


◆ちょっとちがった観光案内

ワジェンキ公園

ポーランド最後の王(18世紀後半)が后のために作った宮殿を中心とした広大な緑のオアシス。ショパンの像(ガイドブックで必ず登場)があることでも有名。ここを散策していたら、掃いて捨てるほどクジャクがいるわ、馬は登場するわ、ヤギが鳴いてるわ、羊が散歩してるわ、ニワトリまでいるわ…ここは本当に公園か?


話はクジャクの次に多いんじゃないかという、野生のリスである。このリスが人を恐れず、手のひらに木の実を載せて見せると取りに来るんである。そのシーンを見た私は転がっていたどんぐりを手に載せてみたんだけど、リス君はぜ~んぜん相手にしてくれない。しばらくポーランド人を見ていて気づいた。動物の気を引くときに舌で『ちっちっちっ』とやるのは日本流らしい。ポーランド人は『バシャバシャバシャ』(意味不明)と言っている。試しに『ちっちっちっ』と言って無視された後、『バシャバシャバシャ』と言ってみたら、リス君が飛んできてくれたじゃないの。…ポーランド語じゃないとダメなんか!?


ちなみに拾ったどんぐりはお味がよくなかったらしく、リス君は私の手からどんぐりを受け取ってくんくんと臭いを嗅いだあと、ご丁寧に私の手に「これ、返すわ」と…。ポーランド人ギャラリーが見守る中、これはとっても悲しく恥ずかしかった。リスのバカやろ~! ってなわけで、動物好きのお方には、この公園は特にお勧め。


バザール(市場)

週に2回は買い物と見物に訪れるのは、ワルシャワのハラ・ミロフスカ バザール。ババ鶏をヒネって羽をむしりながら売っているオババ(同類?)とか、冷蔵ケースもないトタン小屋でカウンターにダイレクトに肉を置いている店がずらーっと並んでいる、O-157が恐いセクションがあったり。そういう常設市場からはみ出た便乗組は路上にシートを広げ、自宅の庭で咲いた花や、飼っている山羊から絞った乳を適当な瓶に詰めて売っていたり、「プロシェン(Please)」と声を掛けてきたおじさんの売り物を見れば、大量のファスナー(何しろってんだ?)。XLサイズのパンツや、客に水をブッ掛ける元気なナマズや…全くどこから仕入れてるんだろうと思うような、??な品揃えなんである。また、日本と違って八百屋に超季節感があり、売ってる野菜はめまぐるしく変わる。7月現在の旬はソラマメと野イチゴ類。これも家庭菜園の残りを売りに来る便乗組が大変多く、見ているだけで楽しい。市場は生活をみられるから面白いとよく言われるが、ポーランドの四季、そしてポーランド人の生活だけじゃなくたくましさも垣間みられるハラ・ミロフスカバザールは、年季の入った市場ウォッチャーわたくしのイチ押し市場である。


※現在ハラミロフスカバザールは、【戦後ヤミ市】状態な部分はごく一部になり、ほとんどがきれいな常設個人商店ブースに改装された。それでも市民の生活を垣間見られる興味深い場所であることは変わらない。


バス

乗用車はトラバントもいるが、比較的ベンツだのプジョーだのと立派な車が多いのに比べ、バスはかなりボロである。ポーランドでは都市間の移動はバスが安くて快適、などと何かに書いてあったのだが、私が驚いたのはこの都市間バスの姿だ。VOLVOのバスもあるにはあるが、多くの場合、プッスンボッコンというようないでたちで現れたバスは、まさしく「となりのトトロ」に出てくる『猫バス』だ!今はいつの時代だ…?勿論とても乗る気になれず、安いのは本当だろうが、本当に快適なのかは不明のまま。是非どなたか試して感想を教えて欲しい。今日はエンジンルームの扉を全開にしたまま走っていく猫バスを見た。ちなみにベンツマークの立派なスケルトンバスが現れれば、それは殆ど例外なくドイツからの観光団が自国から乗ってきているバスで、ポーランドのじゃない…。


後日、その猫バスに乗る機会があった。感想は、思ったほど悪くはない…が、異常に排ガス臭くて頭痛を引き起こしてしまった。時代錯誤の古さながらもきれいに掃除をしてあるし、バスは運転手個人の持ち物なのか、運転席のまわりに修学旅行のおみやげのようなペナントコレクションを展開してあったりしてほほえましい。中距離までならまぁお勧めです。


※現在は都市部では【トラバント】や【猫バス】はほとんど見かけない。ちょっと寂しい。

◆面白習慣あれこれ

~無ければ困る、あれば迷う、このジレンマをどうしよう・・・~

どうしても買ってしまう「地球の○き方」だけど、このポーランド編(チェコ・スロバキアと合冊)はあまりにも間違いが多い。数年ぶりに改訂になったばかりの物を買ったが、「改訂版」にも関わらず改訂されていない記述が多いのだ。市内交通の料金がページによって古い料金だったり、キップの使い方が古いままだったり、旅行者用定期券の情報は抜けてるし。新世界通りの工事はとっくの昔に終わってる。写真と注釈が合ってない。某日本料理店を「在住日本人の間で評判」というが、そんな話は聞いたことがない。危険地域のホテルは掲載してる(これを見て泊まった人がひどい目にあったらしい)。デノミ前の料金表記があったり、レストランはコースで10ドル以下なんて、すでに改訂版取材時の物価じゃないよね。ポーランドを旅行する方、情報は必ず確認しましょう、それと話半分に読みましょう(こういう問題は他の地域編でも同様だとは思いますが…)。


また、チェコ・ポーランド編は、書き手(編集側editer)の主観的な文面はそれなりに面白いんだが、ちょっと読者(旅行者)を下に見ているような部分が所々にじみ出ているのが気になる。読者投稿の失敗談を、まるでさらし者のタイトルを付けて掲載したり。全体に投稿・情報が足りないんだけど、これじゃ投稿したくなくなるぞー。


といいつつも、ほとんど創刊時からの歩き方シリーズ愛読者である母心から、ついつい情報メモをまとめて投稿してしまった。そして次の改訂版を見たところ、相変わらず間違いだらけの上、提供者の名前もないのにしっかり情報だけがごっそりパクられていた。
もう二度と投稿することはないね、えぇ絶対ないでしょう…。


※編集・発行までの間の時間差で物価の上昇など、そういうレベルの相違じゃありませんでした。その後、ポーランド編の間違いはほぼ直ったように思いますが、いったいあの頃の迷い方っぷりは何だったんだろう・・・。